「不妊なんて他人事だと思ってた」1日でも早く知って考えたい不妊・不妊治療の話

「不妊」「不妊治療」というワードは世にあふれています。現在33歳の私は、20代前半から半ばの頃、それらをニュース等で見聞きしていたはずなのに、関心を持つことはありませんでした。「自分には関係ない」と捉えていたのだと思います。

しかし、30代に差し掛かる頃から、それらがすっと入ってくるようになりました。妊娠や出産の経験は一度もありませんが、周囲に不妊に悩んだり、不妊治療でつらい思いをしたりする人がいて、彼らの話を聞くようになったからです。不妊や不妊治療は決して他人事ではない、と自覚した瞬間でした。

不妊は他人事じゃない。データで知るリアル

不妊は他人事じゃない。データで知るリアルのイメージ

国立社会保障・人口問題研究所が5年に一度実施する「出生動向調査」の最新データ「第15回出生動向調査(2015年)」によると、不妊を心配したことがある(または現在心配している)夫婦の割合は35.0%(前回31.10%)と全体の3割強にのぼり、増加傾向にあります。

子どものいない夫婦に限ると、その割合は55.2%(前回52.2%)にもなります。さらに、不妊の検査や治療を受けたことがある(または現在受けている)夫婦は全体で18.2%(前回16.4%)で、子どものいない夫婦では28.2%(前回28.6%)との結果に。

不妊を心配したことがある人の半分以上にあたる、18.2%の夫婦が治療を受けているというデータから、夫婦の6組に1組が不妊に悩んでいるという、報道で度々見聞きする数字が導き出されるわけです。

日本産科婦人科学会の発表によると、2016年は過去最多となる44万7790件の体外受精が行われ、妊娠後に5万4110人の子が生まれたといいます。厚生労働省の統計では、2016年の総出生数は97万6978人。つまり、18人に1人が体外受精で生まれたことになります。

体外受精で生まれる子どもの割合は、2000年には97人に1人でしたが、ここ十数年で急速に増えたといえるでしょう。不妊治療の方法のひとつである体外受精は、取り出した精子と卵子を体外で受精させて子宮に戻すというもの。国は比較的成功率が高いとされる42歳までの女性を対象に公費助成しています。

晩婚化・晩産化の流れもあり、不妊に悩む夫婦が増える中、費用の一部を公費助成する制度が認知され、治療を受ける人が増加したと見られています。しかし、それでも不妊治療には相当なお金がかかります。

不妊治療にかかる平均費用は134万円?

不妊治療にかかる平均費用は134万円?のイメージ

サイエンス&テクノロジーカンパニーのメルクバイオファーマが行った「第3回 妊活(R)および不妊治療に関する意識と実態調査」(対象は全国20〜40代男女23,237人)によると、不妊治療を含む妊活にかかった費用は、男性80.5万円、女性111.9万円との結果が出ています。

Webメディア「妊活ボイス」が2017年10月に行った「妊活・不妊治療」に関するインターネット調査(対象は10年以内に妊活経験のある20~49歳までの女性300人)によると、人工授精・体外受精・顕微授精のいずれかを経験した方に限ると、平均費用は約134万円かかっていることがわかりました。

さらに、不妊治療の中でも高額となる高度不妊治療(体外受精・顕微授精)の経験者となると、治療費の平均は193万円まで上昇し、300万円以上かかった人も6人に1人(16.1%)いたといいます。治療が高度化すると治療単価・回数が増加し、かける時間の長さによっても費用が膨らんでいきます。

加えて近年、不妊の原因の約半数は男性側にあることもわかってきています。精子の数が少ない、運動率が良くない、精子がいないなどの理由で、卵管に到達する精子が減ってしまうと、妊娠しない原因になるのです。今や不妊や不妊治療は女性だけで抱える問題ではありません。

今すぐ子どもを持つつもりはなくても、いずれ持つかもしれない人、少し興味がある人、逆に興味がない人にも、この問題をまずは知るところから始めてほしいです。よりリアルに知ってもらうため、ここでは30代後半で不妊治療を始め、40代で子どもを授かった女性に、ご自身の不妊と不妊治療のリアルについてお話を伺いました。

38歳から不妊治療。44歳で出産した女性の話

38歳から不妊治療。44歳で出産した女性の話のイメージ

不妊体験者を支援するNPO法人Fine(ファイン)で、理事・准ファンドレイザーを務める野曽原誉枝(のそはらやすえ)さんは、自身も不妊治療の経験者です。大学卒業後、大手電機メーカーに勤め、38歳のときに妊活をスタートし、6年に渡る不妊治療を経て44歳で妊娠・出産しました。

大学の同級生と、28歳で結婚した野曽原さん。30歳で主任に昇格していた野曽原さんは責任ある業務を任せられ、仕事の楽しさを感じていたと振り返ります。一方でプライベートでは、結婚から3年ほどして義母が余命宣告を受け、仕事をしながらサポートする日々が続いていました。

管理職にならないかとオファーが来て、昇進試験を受けたのは37歳のときです。キャリアとしては一段落ついたかな、と思っていた矢先、夫が思いがけないことを口にします。

「僕は、子どもが欲しいと思っているよ」

野曽原さんにとって青天の霹靂でした。結婚して10年。子どもを強く望んでいたわけではなかったふたりの間に、子どもの話がほとんど出てくることはなく、このままふたりで生きていくのだろう、と考えていたところでの「子どもが欲しい」。

「当時彼が手術を受けたんです。術前の診察で医師からは『(この病気の影響で)子どもは難しいかもしれない』と伝えられたときは、それまで子どもを欲しいと考えたことはなかったのに、なぜかショックを受けたのを覚えています。

ショックを受けた自分にも驚きましたね。彼も医師の言葉を受けて、一瞬諦めかけたのかもしれませんが、術後の経過は良く、変わらず子どもを望めることがわかり、改めて『子どもが欲しい』と口にしたのだと思います」

4箇所の不妊専門病院を転々と

4箇所の不妊専門病院を転々とのイメージ

妊活を始めたときには38歳になっていた野曽原さん。なんとなく「授かりにくいかもしれない」と感じ、不妊治療も行っている産婦人科へ2〜3カ月通います。そこではタイミング法の指導を受けるもうまくいかず、不妊治療専門の病院へ移りました。当時は「短期決戦で、40歳くらいまでに授かればいい」と考えていたといいます。

「不妊専門病院は6年で合計4カ所を転々としましたね。38〜39歳にかけて人工授精を7回しましたがうまくいかず、その後、体外受精を2回ほどしました。授かっていないとわかったときは、やっぱり毎回ショックでした。受精卵はできるタイプで、分割の仕方もいいと言われていたので、胚移植前に期待してしまうんですよね。

望んでいた結果が出なかったときは、必ず夫と飲みに行っていました。夫に結果を伝えると『そっか、できなかったか』とは言うものの、深刻すぎない様子に救われたと思います。そんななか、不妊治療を始めて1年半ほど経つ頃、40歳になる少し前に病院を変えました。そこでも体外受精を2回ほど行い、稽留流産したこともありました」

続く3カ所目の病院では体外受精を一度だけ試みたものの、ここでも授かることはなかった野曽原さん。病院に行くのが億劫にならない、春と秋の「季節限定」で3カ月妊活→3カ月休みというサイクルで不妊治療を続けていましたが、なかなか妊娠しないことに疲労感を感じていました。限界を感じて夫にこう伝えます。

「少し休みたい。妊娠のことはしばらく考えたくない」

知っておけば、もっと早く行動していたのに

知っておけば、もっと早く行動していたのにのイメージ

「妊娠するために夫婦生活をするのも疲れた」。野曽原さんがそう感じ始めた頃、知人から男性不妊専門の泌尿器科があるとの情報を得ます。自ら進んで診察を受けにいった夫の体に見つかったのは精索静脈瘤(※)でした。

(※陰嚢内の温度が上がる等の理由で、精巣の発育不全などを発症し、精子形成に悪影響を与える)

「不妊治療は女性に対しての医療。でも、男性の自分にもできることがあるなら、できる限りのことをやりたい」。そう思った夫は自らの意思で手術を受けます。結果、精子の運動率の値が改善されたといいます。

「夫がせっかく手術を受けてくれたのだから、最後にもう1〜2回挑戦してみようという気持ちになりましたね。4カ所目の病院で受けた2回目の体外受精で授かることができました」

妊娠した年齢が44歳だったこともあり、日増しに膨らんでいくお腹を感じながら、「この年だから“何か”はあるかもしれない」と、ある種の覚悟を持って過ごしていた野曽原さん。約3500gの大きな男の子を無事出産し、現在その男の子は小学1年生になっています。

野曽原さんが所属するNPO法人Fineには不妊治療に関する相談が数多く寄せられます。「(不妊や不妊治療にまつわる知識や情報を)もっと早く知っておけばよかった」と口にする人も多く、具体的には大きく2つの「これを知っておけば……」という後悔があるそうです。

「卵子は老化することを知っておけば良かった、不妊治療を受けても授かれない可能性があることを知っておけば良かった、と言う方は多いですね。前者は女性の体のことを知らない、というのが大きいと思います。避妊に関する指導はあっても、女性の体の仕組みや生殖医療に関して教える機会はあまりないですよね。

2つ目はメディアに取り上げられる芸能人の高齢出産を見て、『◯歳で授かったなら、不妊治療さえすれば、自分もできるはずだ』と解釈する方が多いです。高齢で不妊治療に取り組んで、授からなかった人はあまりメディアに取り上げられません。一部の人だけを見て自分も大丈夫だと思うのはリスクがあるといえます」

知識を手にすること、体の状態を知ることで、ベストな時期に行動できる

知識を手にすること、体の状態を知ることで、ベストな時期に行動できるのイメージ

不妊や不妊治療の基礎知識は、20代前半など早いうちにふれておくに越したことはありません。前出の野曽原さんも「情報収集をしてほしい」と話していました。

「高齢出産になると妊孕性(妊娠する力)が低下する、流産率が高くなるなど、客観的な事実を知っているだけで、その後の自分の行動がずいぶん変わってくると思います。20代のときには、35歳になった自分なんてイメージがわかないかもしれませんが、正しい情報にアクセスすることで、その年齢に近づいたときにふと思い出すはずです。

たとえ今は『将来、子どもはいらない』と思っていても、人の考えは白黒二択ではありません。“子どもが欲しい〜欲しくない”の中にも微妙なグラデーションがあって、たとえば“子どもはいてもいい”とか“どちらかといえば欲しい”とか、いろいろある。気持ちが変わる可能性もありますから」

漠然とでもいいので、5年後や10年後の自分がどうありたいかを想像するだけで、不妊や不妊治療に関する情報との向き合い方は変わってくるはずです。さらに、自身のコンディションを調べることも、今後のライフプランを踏まえて“逆算”して行動する一助になります。

たとえば、卵巣の中に残っている卵子の数が、何歳の平均的な値と同水準かを表す「卵巣年齢」を調べてみるのもひとつの方法です。大前提として、女性が胎児のときに作られる卵子は、生まれたときから個数が決まっています。この卵子のもととなる原始卵胞は日々減り続けていることも押さえておいたほうがいい知識です。

この卵巣年齢を、指先から0.1mlの血液を採血するだけで、自宅で簡単に測定できる検査キット「F check」が先日発売開始されました。気負わず使えるこういったキットを通じて、体の状態を把握しておくと、得た知識と併せて妊娠しやすい時期に備えることもできます。

「知っておくこと」「準備しておくこと」が、最も良い時期に妊娠に向けた行動をスタートするための手助けになる――。そんなメッセージが本稿から伝わり、アクションにつなげる方が増えれば幸いです。

【参考】 第15回出生動向調査(2015年)47ページ メルクバイオファーマ 「第3回 妊活(R)および不妊治療に関する意識と実態調査」 妊活ボイス「妊活・不妊治療」に関するインターネット調査

池田園子 1986年、岡山県生まれ。フリー編集者/ライター。「DRESS」編集長。結婚と離婚を経験後、女性の生き方やパートナーシップにより関心を持つように。著書に『はたらく人の結婚しない生き方』などがある。Twitterは@sonoko0511

池田園子

1986年、岡山県生まれ。フリー編集者/ライター。「DRESS」編集長。結婚と離婚を経験後、女性の生き方やパートナーシップにより関心を持つように。著書に『はたらく人の結婚しない生き方』などがある。Twitterは@sonoko0511

不妊体験者を支援するNPO法人Fine(ファイン)で、理事・准ファンドレイザーを務める。

不妊体験者を支援するNPO法人Fine(ファイン)で、理事・准ファンドレイザーを務める。